もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「近頃、皇都近辺で魔獣出現の噂がありましたからね」とダミアーノ。

 彼のわざとらしいくらいに澄ました顔に、レオナルドはとてつもない殺意が湧いた。
 さんざんキアラのことを侮辱して、まだ攻撃を続けるなんて。それに、魔獣を作り出しているのもお前らだろう。

 ……と、その場で激しく罵りたかったが、証拠も不十分なまま危険な橋を渡るのは却ってこちらが不利になるので(こら)えた。

「……それで、その際に魔女のマナを測定する魔道具を偶然にも(・・・・)貴公が持っていたというわけか?」と、レオナルドはため息混じりに言う。そんな偶然、あるわけないのに。

「おっしゃる通りです」ダミアーノはしたり顔で返す。「此度の魔獣出没の噂で、皇后陛下が秘密裏に研究をご命令していたのです。陛下は先見の明をお持ちの方ですので」

「文献で読んだことがあったのだ。魔獣の群れと魔女の関係を、な」と皇后。

「それは素晴らしいですね。まるで神ような、見事なご慧眼ですな。私のような凡人には、事件が起こるのを最初からご存知だったように思えます」

「はっ。これくらい出来んようでは、この王冠は載せらるまい」

 皇太子と皇后の鋭い視線が交差する。まるで研がれた剣と剣がぶつかり合うような緊迫感だった。
 その場から少しでも動いたら皮膚を裂かれそうで、周囲の貴族たちは黙って彫像のごとく固まっている。
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