もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「彼女は魔女です。証拠もあります」

 出し抜けにダミアーノが割って入った。
 皇族の会話に割り込むなど無礼極まりないのだが、彼は高ぶった気持ちを抑えられなかった。いつもなら不敬だと咎める皇后も今日は黙ったままだ。
 二人の顔は、勝利を確信しているような妙な嫌らしさがあるなとレオナルドは感じた。

「証拠だと?」

 皇帝がぴくりと眉を動かす。

「はい、彼女の瞳は『赤色』です」

 心臓を突き動かすような動揺が、波動のような勢いで広がった。
 赤い瞳は魔女のマナを持つ者特有の色だ。即ち、過去に滅ぼしたはずの禁忌の色。

 レオナルドはぐっと喉を鳴らす。牢獄に閉じ込められているキアラの身を案じた。

 瞳の色を変える魔道具はまだ開発中のもので、効果は恒久的なものではなく定期的にマナを注入しなければならない。地下牢にいる今、それは既に切れていることだろう。

 彼は言葉に詰まる。重苦しい沈黙が停滞していた。湿った風が己を包み込んでいるかのようだった。

 だが、それは彼だけかもしれない。皇后とダミアーノはまるで避暑地で寛いでいるかのような涼しげな顔をしていた。

「今思えば……伯爵令嬢と婚約していた頃に、不可解なことがございました」

 ダミアーノは聴衆に訴え掛けるように、端から端へ顔を移しながら言う。貴族たちは固唾を飲んで彼を見つめていた。

「元・子爵令嬢、マルティーナ・ミアの件です。私は……確かに彼女と交際をしておりました。将来も約束した仲でした。なのに彼女は、前触れもなく突如第二皇子殿下へと乗り換えました。以降は、まるで人が変わったように、私に対する態度も豹変した。
 それに、彼女の最期――あの痛ましい処刑の際、想像妊娠をしておりました。
 ……魔女のマナは他人(ひと)の心を操ることが出来ると言い伝えられております。私と子爵令嬢の仲に嫉妬した彼女が、精神を操った可能性も否定できません」
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