もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「ふざけたことを言うなっ!」
レオナルドは思わず声を荒げた。弾けるような怒りが、ピリピリと肌を伝って全身に広がっていく。
許せなかった。キアラの不幸の元凶は不貞を行った二人なのに、自分たちのことは棚に上げて。幾度も、彼女の清らかな心を弄んで。人生を破壊して。
(キアラは……過去六回もお前のために己の命を犠牲にしたんだぞ……!)
ダミアーノはにっこりと笑って、
「私は個人的な見解を述べたのみです。本日は査問会議ですから」
「そう言えば、皇太子と伯爵令嬢の婚約も異様な速さだったのう?」
今度は皇后が同意するようにニヤリと笑った。
「もしかして……伯爵令嬢の力を知って、それを手に入れたいが為に急いで婚約を結んだのか? 正当な婚約者から強奪してまで?」
「このっ……!」
「そう考えると全ての辻褄が合う。違うか、皇太子よ?」
レオナルドは皇后を睨め付けた。対する皇后は、余裕の笑みを浮かべている。
毒を孕んだ緊張が、細い糸のように張り巡らされた。冷たい空気が、足元から凍り付かせるようだった。
しばらくの沈黙のあと、
「陛下、これは由々しき問題です」
皇后が大仰な身振りを交えて訴え掛けた。
レオナルドは全身の血が滾るように熱かった。皇后を憎らしく思う気持ちと同時に、己の無能さを激しく呪った。
あの時、皇都から出るのを止めていたら。あの時、もっと慎重に行動をしていれば。
なぜ俺は、キアラを守らなかったのだ……。
「皇太子が伯爵令嬢の力を知り、禁忌のマナを利用しようとなると帝国法に触れています。
それに、皇太子という絶対的な身分を保持しているのに、更なる力――それも禁忌の力を求めるのは……野心があったからではないでしょうか?」
皇后は不気味に笑いながら、貴族一人一人の顔を確認するように見た。
「……野心とは?」
皇帝の重厚な低音が轟く。
そこには、静かな怒りが帯びていた。
「陛下を排して、己が皇帝の座に就くという意味です」
深い闇の中に放り込まれたような静寂が訪れた。
それは、口にしてはいけない恐ろしいことだったのだ。
「謀反を企てた皇太子は、廃太子および処刑が妥当かと」
皇后の声音は、いつになく弾んでいた。