もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
近付いてくる足音で、はっと我に返る。この弾むような軽やかな音には聞き覚えがあった。
暗闇の中からだんだんと近付いてくる人影は――、
「ジュリア!」
「キアラ様、お食事を持って来ましたよー!」
普段と変わらない、いつもの侍女だった。
みるみる安堵感で満たされて、キアラは思わず頬を緩める。侍女が無事で本当に良かった。
「ありがとう。でも、あなたも拘束されたって聞いたけど……」
「はいっ! 皇太子殿下が助けてくださったんです。おまけに回復魔法まで掛けていただきまして、私、今とっても健康なんですよー!」と、ジュリアはケタケタと笑った。
「回復魔法って……。まさか、拷問されたの!?」
「えっとぉ〜、まぁ、少しは痛い思いをしましたが、もう平気でっす!」
ジュリアの笑顔が痛々しく見えて、キアラも肌を刺されたような気分だった。
全部、自分のせいだ。胸の奥が押し潰されるように苦しくなった。
「そんな顔しないでくださいよー! 痛いって言っても、ちょっと平手打ちされたくらいですから」
「でも……」
「今はピンピンです! それに、皇太子殿下の計らいで、こうやってキアラ様の食事係にさせていただいたんですよ! 毒味もバッチリなので、いっぱい召し上がってくださいね!」
「……」
キアラは一拍押し黙ったあと、
「なんで……」
唸るような小さな声を上げた。
「なんでって、私はキアラ様の侍女ですから!」と、ジュリアは誇らしげに胸を張る。
「違うっ……。なんで、まだ私なんかに構うのっ……!」