もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「クソッ!」
レオナルドは壁を力いっぱい拳で殴る。自分に腹が立って仕方がなかった。
さっきは絶好の機会だった。キアラ・リグリーアを殺す最高の好機。
公式にはまだ北部にいる自分と、貴族の令嬢なのに不用心に一人で出かけている伯爵令嬢。騒がれずに彼女を始末するには最適だ。なんなら、あの毒蛇を放置するだけでも良かった。
だが――、
(なんだ、この違和感は……!?)
剣を振り下ろす瞬間、彼は不思議な感覚に襲われた。
ここで殺したら駄目だと強く思ったのだ。
誰かに引き留められる感覚。まるで自らが彼女を傷付けるのを拒否するかのような。
それは体内に宿る見えないマナが警告をしていた。
だから瞬時に毒蛇に的を変えた。
もう一つ、不思議なことがあった。
あのとき伯爵令嬢の瞳が一瞬だけ赤く光った。
……あれは本物の魔女が持つ目の色だった。
魔女は今では滅んだ存在で、特別な魔法を使えたらしい。仮に現在に魔女がいたら即刻監獄か死刑になるような危険な魔法だ。
魔女が絶滅して数百年経った今の帝国の法律でも、魔女の使用する魔法は禁じられている。
(まさか……。おそらく照明の影響だろう)
あのとき感じた焦燥感も、きっとここが戦場ではないから躊躇したのだろう。
軍人が民間人を殺すことは軍紀で禁止されているので、軍のトップに立つ自分がそれを破るのは憚られたのだ。
――そう思い込むことで、彼は無理やり自分を納得させたのだった。
今回はこれまでより早く首都に戻ったのだ。あの女を始末するチャンスなどいくらでもあるだろう……。