もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「ぐっ……!」
ついにレオナルドの体力に限界が来る。
平衡感覚がぐにゃりと歪んで身体が大きくぐらつくが、すかさず剣で体重を支えてなんとか立ち上がった。
ぽたぽたと汗だか血液だか分からない水分が垂れている。全身が滾るように熱くて、凍えるように寒気がした。
「レオ――」
「問題ない」
「ですが……」
「ただの魔法攻撃だ。戦場と変わりはない」
レオナルドは残った力を振り絞って姿勢を正す。まだ己は生きている。魔女のマナなど存在しないのだ。
最早、意地だった。
それは常に品行方正な皇太子の見せた、初めての我儘でもあった。
「リグリーア伯爵令嬢、定位置へ」
キアラは騎士たちに強引に立たされて、引きずられるように元の位置に戻される。また悪夢の時間の始まりだった。
「次で終わりそうですね、陛下」と、皇后が勝ち誇ったように言う。邪魔な皇太子が死んで、最愛の息子が皇太子の座に就くと思うと笑いが止まらない。
「…………」
皇帝は、ただ黙って見つめている。
レオナルドは瞳を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
キアラは両手にマナを集中させる。
レオナルドは防御魔法を発動させ、
キアラは両腕の中に黒い電撃の球を顕した。
攻撃。
黒い雷が巨大な剣のように、
レオナルドを貫く。
爆音と共に、黒煙が広がった。
(お願い……! 無事でいて……!)
キアラは祈る。
私の、渾身の力を受け止めて。
生きて。
「うおおおおおっ!!」
レオナルドは全身全霊のマナを、両手に込める。そして全ての力を押し出すように、キアラのマナを受け取った。
――ピシッ
レオナルドの防御魔法の盾に大きなひびが入る。それは硝子が割れるようにミシミシと音を立てながら広がっていった。
「っ……!?」
僅かに漏れたキアラのマナが彼の顔の皮膚を切り裂いた。赤い血が小さな玉になって弾け飛ぶ。次は脚。そして腕。
レオナルドはだんだんと闇のマナに侵食されていく。肺から血が上がってくる。胸が押し潰されそうだ。
薄くなった空気が彼を蝕んだ。目眩がした。遠のきそうな意識を、根性で振り払う。
「マナよっ!!」
レオナルドは体内のマナを全て搾り取るように吐き出していく。肉体に宿る液体が波のように一気に動いて、全部外へ持って行かれる感覚がした。
(絶対にキアラを助ける……!!)
帝国一と謳われる魔力を持つ彼は気付いていた。キアラの内包するマナのほうが膨大なことを。
だが、決して引けない戦いがある。
七回目こそ……キアラと共に…………。
「!?」
次の瞬間、レオナルドの全身が輝き出した。それはどんな光魔法より、白さを帯びていた。
光の増加と同時に、力がみなぎる。