もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜





 キアラとダミアーノは、よくある政略結婚だった。

 初めて二人が出会ったのは10歳のとき。父が決めて問答無用に婚約した相手のはずなのに、彼女は彼に一目惚れをした。

 タンザナイトみたいな青みがかった銀髪に、スカイブルーの澄んだ瞳。どちらかと言えば可愛らしい顔立ちは、寒色系の容姿と相まって中性的な美しさを持っていた。

 対してキアラは、映えない黒髪に赤みがかったブラウンの瞳。お世辞にも彼に釣り合う容姿だと思わなかった彼女は、せめて中身は頑張ろうと努力した。

 その結果、17歳になった今では、ダミアーノから公爵見習いの仕事の手伝いを頼まれるくらいには成長できた。見た目の華やかさの差は、結局埋められなかったけれど。

 それでもキアラは満足していた。自分が大好きな婚約者の役に立っているという事実は、彼女にとって誇りだった。だって二人はもうじき夫婦になるのだし、時間をかけて固い絆も築かれていったのだから。

 しかしダミアーノはキアラを愛していなかった。もちろん、絆なんて薄っぺらいものも持っていない。

 彼には心から愛する令嬢が別にいた。

 マルティーナ・ミア子爵令嬢。
 鈴のように揺れるゆる巻きのストロベリーブロンドに引き込まれるような碧色の大きな丸い瞳は、華やかなダミアーノの隣にはぴったりの令嬢だった。
 背丈の高いキアラとは正反対の華奢な身体も、庇護欲をそそられた。

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