もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


 黒い落雷が苛烈に降り注ぎ、キアラの魔法が周囲を焦がす。もう30体は倒しただろうか。他の騎士たちの分も含めると、優に100は越えている。
 しかし、どこからか集まって来るのか、無尽蔵に湧いてくる。

(どうやってこの量を集めたの……?)

 気が遠くなるような大量の魔獣を皇都まで運ぶとなると、絶対に悪目立ちするはずだ。人々の口に上らないのはあり得ない。
 となると、やはり皇后派閥が偽物の魔女のマナで他の場所から転移させているのが濃厚だろう。

(転移の入口(ゲート)を探さなくちゃ……)

 キアラは周囲を見回す。魔獣が固まっている場所があるはずだ。きっと、その近くに入口(ゲート)が――、

「やっぱり魔女じゃないか!」

 その時、にわかに群衆の中から一人の男が大声を上げた。獣に負けないほどのがなり声に、一瞬で周囲から注目を集める。

「魔獣は魔女に集うんだろう!? あの女が引き寄せたんだ! 魔女がっ!!」

 少しの間しんと静まり返って、波紋のようにみるみる動揺が広がった。
 ただでさえ大量の魔獣に囲まれて混乱してるところに不安を煽るような言葉は、人々に疑念の種を植え付けるのに十分だった。

「伯爵令嬢が呼び込んだってこと?」

「でも、なんでそんなことを……?」

「皇太子様は知っているの?」

「神様ー! 助けてくださいー!」

 疑惑の目がキアラに向く。途端にぎくりと背中が寒くなった。それらの双眸には見覚えがあったのだ。
 どっと汗が吹き出て、呼吸が浅くなった。暗い思い出が、彼女の脳裏に迫って来る。

 あれは、嫌な視線だ。
 もう、六回も自分に向けられた、あの、最期の処刑の日の……。
< 200 / 221 >

この作品をシェア

pagetop