もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「キアラ!」

「きゃっ」

 その時、キアラに牙を剥いた魔獣を、間一髪のところでレオナルドが斬った。

「大丈夫か?」

「すっ、すみません。レオナルド様こそ、もうお体はよろしいのですか?」

「あぁ。もう治った」

 レオナルドはそう答えたものの、彼の背後ではアルヴィーノ侯爵がぶんぶんと首を横に振っていた。

(私が頼りないから、無理をしていらっしゃったんだわ)

 キアラは(かぶり)を振って、肉体に内包するマナだけに耳を傾ける。自分のせいで怪我人が動くはめになってしまったと、戦場で考え事をしていた己を恥じた。
 今は魔獣に集中しなければ。こんな私でも、戦力の一つなのだから。

「陛下もおっしゃっていたが、伯爵令嬢は魔女ではない。噂や憶測ではなく、彼女の姿をその目でよく見てくれ」

 にわかに皇太子が声を張り上げた。すると平民たちは黙り込み、野次ににつられていた者たちはばつが悪そうに顔を伏せる。

「君たちはなるべく一箇所に固まってくれ。騎士は囲って民衆を守れ。絶対に陣形を崩すなよ」

「はっ!」

 皇太子の一言で空気が引き締まったように、騎士も平民たちもきびきびと動き始める。一瞬で連帯感を構築する様は流石だとキアラは思った。頼もしい婚約者がいて、なんだか嬉しくなる。
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