もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

44 違和感

(なぜ、彼がまだここにいるの?)

 ダミアーノと目が合ったとき、キアラが最初に出た感想はそれだった。

 皇族をはじめとする貴賓席は、既に空になっている。皇后も逃げたようだ。他の貴族も命が惜しいのだろう、誰一人としてこの場に残っていない。

 だが、彼だけはここに残っている。いくら作り物の魔獣でも、人の命を奪うことができるのに。
 となると……危険な場所なのに、ダミアーノは安全を確信している。

(分かりやすいこと)

 諦念の混じったため息を漏らす。彼はなぜこんなにも自分たちに執着をしているのか、キアラには理解できなかった。愛するマルティーナの仇なのか、はたまた未来の確固たる地位のためなのか……。

 いずれにせよ、おぞましい執着のようなものを感じる。
 これ以上アレ(・・)を野放しにしておくと危険だと、本能が彼女に告げていた。

「レオナルド様」

 キアラは小声でそっと声を掛けて、目配せをした。彼はダミアーノの姿を認めるなり「なるほど」と嘆息する。

「魔獣は四隅から出現している。あの男を中心に、広場全体で魔法陣を形成してるようだな」

 彼女は用心深そうに首肯して、

「えぇ、おそらく協力者がいるはずです。一つずつ壊していきましょう」

 二人は瞳を閉じて、マナを辿(たど)る。絡まった糸みたいに広場内にぐちゃぐちゃに張り巡らされた偽物の魔女のマナは、端にいくにつれ複雑に絡み合って一本の樹木のように太くなっていく。

(あそこね……!)

 レオナルドも場所を把握したようで軽く頷き、

「俺は北側を。君は南を頼む。比較的マナの濃度の薄い東西は、私の部下にやらせる」

「承知しました」

 二人はそれぞれの目的の場所へ駆け出した。
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