もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


「無様ですね、皇太子殿下」

 その時、レオナルドの前に数人の人影が現れた。視界が濁って見えづらいが、その中心にいる者は――、

「ダミアーノ・ヴィッツィオか……」

「ご無沙汰でございます、殿下」ダミアーノが恭しく礼をした。「ご息災のようで、嬉しゅうございます」

 レオナルドは眉根を寄せて、

「これは何の真似だ」

 皇太子然として、険しい声音で問うた。
 ダミアーノは小馬鹿にしたようにくすりと笑って、

「何のって……ご優秀な殿下でしたら、お分かりでしょう? あなたも……キアラ・リグリーアも、ここで死んでいただきます」

「…………」

 レオナルドは数拍黙り込んだあと、大きく息を吐いた。

「貴公も意外にしつこい男だな。そんなにキアラのことを愛していたのか?」

 皇太子の不躾な問いに、ダミアーノはみるみる気色ばむ。

「は? 誰が、あんな女なんかを……。このオレが」

 顔をぐしゃりと歪めながら元婚約者の現婚約者を()め付けた。

「婚約者を他の男に奪われて悔しいのか? そんなに彼女を愛していたのなら、しっかり態度で示しておけよ」

「黙れっ!」ダミアーノは大声を上げる。「お前たちはオレを嵌めたくせに、よくもぬけぬけと……」

「人聞きが悪いな。元より貴公が婚約者を裏切っていたのが始まりだろう。ミア子爵令嬢との婚姻のためにな。それは立派な不貞だ」

 マルティーナの名前が出た瞬間、ダミアーノはビクリと肩を震わせる。腹の中に溜まった怒りが爆発しそうだった。
 この男は、いつまでも自分を虚仮(こけ)にして……。

 だが次の瞬間、彼は皇后との密約をはっと思い出す。すると暴走しそうな思考が少しは凪いだ。
 皇太子の挑発に乗っては駄目だ。自分には大切な使命がある。未来のヴィッツィオ公爵の当主としての、輝かしい道を歩むために……!
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