もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
ダミアーノは焦っていた。
婚約者であるキアラとは、あの一件で揉めた以来、一度も顔を合わせていない。
愛情の欠片も持っていないあの女と会えないのは構わないが、自分が出した手紙を無視されるのは癪だった。
彼は両親から伯爵令嬢のご機嫌伺いを怠るなと命令されていて、定期的に手紙を出していた。
いつもは三日もしないうちに返事が来るのだが、今は全くの梨の礫だった。もう三通も送っているが、婚約者からは一度たりとも返事が来ていない。
(茶会で怒らせたか? いや、それにしてもおかしい)
ダミアーノの知るキアラは、自分に対して常に従順だった。
何を言っても基本的に「イエス」でしか答えないし、彼のことを心から愛して、恋愛というものに依存している様子さえ垣間見られた。
そんな純情な世間知らずの令嬢なので与しやすかったのだ。
しかし、あの日は違った。
婚約者は初めて自分に刃向かってきたのだ。
(マルティーナに嫉妬していると思ったが……もしかして感付かれたか?)
キアラの態度はそうとしか思えない。完全に隠蔽していたはずが、一体いつ気付かれたのだろうか。
いずれにせよ、今のままでは非常に不味い。不仲になったことが両親に露見したら、面倒なことになりそうだ。
ミア子爵令嬢との噂も未だに消えず、公爵家として世間体も良くない。
――それに、計画も台無しだ。
(まだ早いと思ったが……仕方ない…………)
次に婚約者に確実に会えるのは、皇太子の凱旋パーティーの時だろう。
その日が、始まりだ。