もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
マナの臭気と、黒煙と土煙が混じった闇が広がる。
キアラがそこに辿り着いた時は、視界が黒く染められてしまった。
「レオナルド様……!」
両手を握って祈るように婚約者の身をひたすら案じる。マナの厚い混沌の中で微かに、レオナルドの生命を感じた。
やがて、黒い景色は晴れた。
同時にキアラの曇り顔もぱっと明るくなる。
レオナルドが、ダミアーノの喉元に鋭い剣先を突き付けていたのだ。
「なっ……なぜ……」
ダミアーノは困惑が隠せなかった。魔女のマナは他の魔法を無効化する。例え人工的に作り出したものでも、通常魔法では防ぎきれないはずだ。
なのに、目の前の男は、平然と己の前に立っている。渾身のマナを込めて、全力で挑んだはずなのに……。
レオナルドはあたかもダミアーノの心内を読んでいるかのように、涼しい顔で淡々と言った。
「どうやら先ほどの魔女裁判で闇魔法に耐性が付いたようだ。嬉しい誤算だな」
「っ……! このっ――」
「いい加減にして!」
二人が同時に声のほうへ顔を向ける。
キアラだった。
彼女はわなわなと震える身体を両腕で抱いて、溢れ出る怒りを抑え付けていた。