もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
その日は、からりと晴れた気持ちの良い気候だった。
皇都の大広場には、魔女裁判の時と同じくらいの大勢の人々でごった返していた。
「早くあの女を殺せーっ!!」
「村の娘は、婚約も決まっていたんだ! それを、あんな目に……」
「この悪魔っ!」
「罪のない子供を殺すなんてっ……! どっちが獣だよ!」
苛烈な怒りの孕んだ罵声があちこちから飛び交っている。
民衆たちのヴィットリーアへの反発は、凄まじいものがあった。それは廃后個人を乗り越えて、皇族全体まで危害が及びそうな勢いだった。
しかし、これまでの皇太子の功績や、魔女裁判後の魔獣の討伐を見ていた者たちがレオナルドとキアラの活躍を語り広めて、辛うじて皇室の尊厳は保たれた。
なので民衆の怒りの矛先は、元皇后と元第二皇子へと集約されていったのだった。
「罪人、入れっ!」
ヴィットリーアが執行人に連れられて断頭台へと向かう。
彼女の姿が現れたとき、人々に衝撃が走った。
あんなに美しかった皇后は、今では干からびたように痩せ細って、顔中皺だらけで、まるで風前の灯火の老婆のようだった。
亡霊をも思わせる異様な姿に、彼らは思わず息を呑む。彼女は目は虚ろで、身体より先に心はこの世から去ってしまったように感じた。
「若返りの闇魔法の効果が切れたようだな」
皇族席に座っているレオナルドがぽつりと呟く。彼は無表情で、六回も己を敗北させてきた最大の敵を眺めていた。
「そうですね。生贄を伴う高度な魔法は反動も大きいです。失敗すれば命をも奪われますから」と、隣に座っているキアラが言う。
「そうか……」
にわかに、レオナルドがキアラの手をぎゅっと強く掴んだ。大きな手が彼女の手をすっぽりと包み込む。それは熱を帯びていて、彼女の心臓がどきりと跳ね上がった。