もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「!」

 そのとき、キアラは気付いた。
 レオナルドの手が微かに震えている。それは勝利の喜びに打ち震えているのか、はたまた過去を振り返っているのだろうか……。
 彼女には分からなかったが、今は聞かないほうが良いと思った。

 キアラはもう片方の手で、レオナルドの震える手を握った。今度は彼の手が両手で包まれて、弾かれたように目を見開く。

 二人の目が合った。

 キアラは微笑んで、レオナルドは安堵したよにふっと笑顔を見せた。彼らの間に言葉はないが、心は繋がっている気がした。

 二人は再び前を見る。心はさっきよりも穏やかだった。

 執行人により廃后の長い長い罪状が読み上げられ、彼女の首が断頭台の刃物の下に置かれる。いよいよ処刑が始まるのだ。

 レオナルドの手の力が一層強くなった。キアラも力を込めて握り返す。

「ふははははははっ!」

 突如、ヴィットリーアの瞳に光が灯って、哄笑しはじめた。

「帝国は呪われておる! この国は魔女に呪われているぞ!」

 まるで死体が動きだしたみたいな不気味な様子に、人々がどよめく。

「次代は魔女に支配されるのだっ! その時に後悔しても、もう遅いのだ!」

 彼女の呪いの言葉に執行人も慄き躊躇するが、皇帝の「始めるように」との一言で、刑は施行された。

「あはははははは――」

 刃物が落ちる。
 歓声が上がる。
 ヴィットリーアの頭が落ちた。



 レオナルドの手の力がふっと軽くなる。
 キアラも彼に合わせて力を緩めた。

 彼は長いため息をついて、

「七度目の正直だな……」

 全身が弛緩したように、ダラリと姿勢を崩しながら苦笑した。
 


 
 
< 217 / 221 >

この作品をシェア

pagetop