もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「!」
そのとき、キアラは気付いた。
レオナルドの手が微かに震えている。それは勝利の喜びに打ち震えているのか、はたまた過去を振り返っているのだろうか……。
彼女には分からなかったが、今は聞かないほうが良いと思った。
キアラはもう片方の手で、レオナルドの震える手を握った。今度は彼の手が両手で包まれて、弾かれたように目を見開く。
二人の目が合った。
キアラは微笑んで、レオナルドは安堵したよにふっと笑顔を見せた。彼らの間に言葉はないが、心は繋がっている気がした。
二人は再び前を見る。心はさっきよりも穏やかだった。
執行人により廃后の長い長い罪状が読み上げられ、彼女の首が断頭台の刃物の下に置かれる。いよいよ処刑が始まるのだ。
レオナルドの手の力が一層強くなった。キアラも力を込めて握り返す。
「ふははははははっ!」
突如、ヴィットリーアの瞳に光が灯って、哄笑しはじめた。
「帝国は呪われておる! この国は魔女に呪われているぞ!」
まるで死体が動きだしたみたいな不気味な様子に、人々がどよめく。
「次代は魔女に支配されるのだっ! その時に後悔しても、もう遅いのだ!」
彼女の呪いの言葉に執行人も慄き躊躇するが、皇帝の「始めるように」との一言で、刑は施行された。
「あはははははは――」
刃物が落ちる。
歓声が上がる。
ヴィットリーアの頭が落ちた。
レオナルドの手の力がふっと軽くなる。
キアラも彼に合わせて力を緩めた。
彼は長いため息をついて、
「七度目の正直だな……」
全身が弛緩したように、ダラリと姿勢を崩しながら苦笑した。