もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


 あの処刑の日から半年、ついに皇太子と伯爵令嬢の婚礼の儀が執り行われることとなった。
 暗い事件が続いたあとの、英雄の祝い事は多くの民衆から祝福された。
 なにせ花嫁は、共に皇都で魔獣と戦った伯爵令嬢なのだ。

 ――コン、コン。

 軽やかなノックの音がする。

「あっ! 殿下がいらっしゃいましたね!」

 ジュリアが弾むように扉まで飛んでいった。

「キアラ!」

 正装姿のレオナルドが入って来る。いつもに増して凛とした彼の様子に、キアラの脈がどきりと跳ね上がった。沸騰したみたいに一瞬で顔が赤くなる。

「今日は一層綺麗だ」

 皇太子が伯爵令嬢の手を取って、そっと口づけた。

「あ、ありがとうございます……」

 彼女は赤い顔をもっと真っ赤にさせて、小さく頷く。

「君は帝国一美しい」

「っ……! もうっ、褒めすぎです!」

「ははっ、本当のことだ」

「……」

 キアラは恥ずかしさで爆発しそうになって俯いた。

「ん? 飾りが少し曲がっているな」

 レオナルドは、俯いた彼女の頭に優しく手を触れてパールの装飾を留め直す。

「これで良し」

「ありがとうございます」

「ああ」

「……」

「……」

 レオナルドは黙ってキアラを見つめている。
 愛しい婚約者を見るというか、何か物欲しそうな……?

「……何でしょう?」と、痺れを切らしたキアラが訊いた。

 彼は真面目な顔をして、

「今日はチップはくれないのか?」

「えぇっ!?」

「チップだ、チップ」

 キアラは一瞬目を丸くするが、結婚式直前なのにお茶目な婚約者がたまらなく愛おしくなって、

「では、チップです」

 レオナルドの顎に軽く手を触れて、頬にそっとキスをした。

「っ……!」

 戦闘ではあり得ないような不意の攻撃に、彼は顔を真っ赤にして身体を硬直させる。
 彼女はくすりと笑って、

「レオ様にだけの、特別なチップですわ」

 嬉しそうに片目を閉じた。

 レオナルド嬉しさで数拍思考停止していたが、

「じゃあ、俺からも……」

 キアラのピンク色の瑞々しい唇に、キスをした。


「お二人とも、時間ですよ」

「もう〜っ! ちょっと待ってください! キアラ様の口紅を直さなきゃ!」

 アルヴィーノ侯爵とジュリアの言葉に、二人ははっと我に返る。
 そして顔を見合わせ、照れくさそうに小さく笑いあった。



 七度目の人生。
 キアラは、形のない愛を知った。
 レオナルドという、無限の愛を。






◆ ◆ ◆




最後までお読みいただき有難うございました
厚く御礼申し上げます

2024/9/21
あまぞらりゅう


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