もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


「扉は少し開けておくから。安心してくれ」

「はい……」

 二階には休憩室が設けられていて、広めのサロンや個室が用意されてあった。パーティーで疲れた貴族たちはここで会話を楽しんだり、男女で休んだりする。

 キアラとダミアーノは婚約者同士なので二人で個室にいてもおかしくないのだが、世間体を重んじる高位貴族は、はしたないことはやらないものだ。

 これにはキアラも同意だった。婚約破棄をする予定の男とのあらぬ疑いは作りたくないのだ。

 ここはソファーも机も椅子もない。だからキアラは仕方なくベッドに軽く腰掛けた。
 すると、ダミアーノが身体が密着するくらいの勢いで隣に座ってきた。途端に彼女はぞくりと寒気がして、冷や汗が出た。

「済まなかったな」

 婚約者の意外な言葉にキアラは面食らう。

「な……なにがですの……?」

 まさかあのダミアーノが自分に謝るなんて。
 そこに嬉しさは全くなく、なんとも言えない異様な不気味さを感じた。本能的に嫌な予感がする。

「ほら、この前の茶会の。オレが浅はかだった。悪い……」

「そうですか……」

 謝罪は受けるつもりもないし、許すつもりもない。六回も破滅させられて、そんな次元はとっくに過ぎている。

 でも、そんなことはおくびにも出さない。
 ダミアーノとはこのままゆっくり離れていって、最後はお金で解決なのだ。

「キアラ」

 ダミアーノがキアラの左頬に手をあてる。そしてじっと彼女の瞳を見つめた。
 スカイブルーの瞳が彼女を閉じ込める。

 ――ドクン。

 キアラの心臓が大きく跳ねる。

 みるみる全身が熱くなって、身体の深い底から愛しい想いが溢れ出てきて、胸が張り裂けそうになった。

(ダミアーノ様……!)

 キアラの失われた感情は激しく燃え上がって、目の前の――最愛の、愛しい婚約者をうっとりと見つめた。
 彼を愛する気持ちが、無限に膨れ上がっていくのを感じる。


 キアラはダミアーノを憎んでいた。

 キアラはダミアーノを愛している。

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