もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


「キアラ!」

 両手に炭酸水を持ったダミアーノが、慌てた様子で駆け寄って来た。
 その様子をキアラは冷ややかな目で見る。彼女の奥底には憎しみだけが、嵐のように渦巻いていた。

「どうしたんだ? 部屋にいないと思ったら、大きな音がして――」

「ダミアーノ様、もうすっかり治ったようですわ。ありがとうございました」と、彼女は冷めた低音で婚約者の言葉を打ち切った。

「えっ……」

 部屋の中とは正反対の態度に彼は面食らう。

(おかしい……。さっきまでは上手くいっていたのに……)

 ダミアーノは婚約者の顔を覗き込んで、

「本当に大丈夫なのか?」

 まっすぐに瞳を見つめた。

「……」

 キアラも彼の瞳をまっすぐに見つめ返して、

「えぇ、大丈夫ですわ」

 とびきりの笑顔で返事をした。

 彼女は嬉しかったのだ。
 だって、さっきみたいにダミアーノを愛する気持ちなんて、少しの欠片も持っていなかったから。

 不思議な感覚だった。あんなに激しく愛する気持ちが、今では完全に凪いでいる。
 それどころか逆行直後の憎悪する感情も復活して、ダミアーノを殺してやりたい衝動でいっぱいだ。

「ですが……」キアラは涼しい顔で言う。「大事を取って本日は失礼いたしますわ」

「そ、そうか。ならオレが屋敷まで――」

「皇太子殿下も」

 キアラは婚約者を無視して、レオナルドに身体を向ける。

「本当にありがとうござました。では、ご機嫌よう」

「あ、あぁ……」

 レオナルドは不可解さと一抹の不安を覚えたが、彼女はさっきまでは本当に体調が優れないようだったので、もう何も言わずに見送ることにした。
 
 キアラは踵を返す。
 ダミアーノは追いかける。

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