もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「あれ……?」
一週間振りにベッドから起き上がった主人の髪に櫛を入れていたジュリアの手が止まる。そして眉根を寄せてじっと鏡を見つめた。
「どうしたの?」と、キアラは首を傾げる。
ジュリアは不可解そうに、
「その……キアラ様の瞳の色が変わっているような気がして……」
「えっ!?」
キアラは慌てて鏡を見た。
「っ…………」
そして言葉を失う。
鏡の中の自身の瞳は、赤茶色ではなく――燃えるように真っ赤になっていたのだ。
「嘘……どういうこと……?」
「分かりません。高熱の影響でしょうか? 一度、専門の医者に診てもらったほうがいいかも」
「高熱で瞳の色が変わることってあるの……?」
「さぁ……?」ジュリアは首を傾げる。「酷い充血でしょうかねぇ?」
にわかに、嫌な予感がキアラの頭によぎる。みるみる不安が支配して、胸の鼓動が速くなった。
不吉な赤い瞳。
それは、過去に文献で読んだ「魔女」の姿だった。
魔女は闇のような黒い髪と、真っ赤な瞳を持つ。彼女たちは不思議な魔法を使い、人々を混沌に陥れた。
この世界の魔法は、原則として物理的な作用をもたらす。しかし魔女の魔法は、人間の精神に影響を与える危険な魔法らしいのだ。
彼女たちは魔女狩りで滅んだと言われていた。
それに、魔力のない自分が魔女だって?
それこそ絶対にあり得ない話だ。人の持つ魔力は生まれつきに決まっていて、それは一生変化することがないのだから。
(馬鹿馬鹿しい。ジュリアの言う通り、きっと高熱の影響なんだわ。時間が経てば元に戻るでしょう。光の加減もあるでしょうし……)
心配して見つめているジュリアを安心させるように、キアラは微笑む。
「大丈夫よ。今のところ、色の変化以外の異常は感じないわ。まだ熱の影響が残っているだけなのかも」
「ならいいんですけど……」
「さ、今日は購入した物件を見に行くんでしょう? 身支度は任せたわ」
キアラが銀貨を渡すと、ジュリアの目がパッと輝いた。
「は〜い! 頑張りまっす!」