もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
準備が整ってキアラたちが玄関へ向かおうとした折も折、
「お嬢様、お客様がお見えです」
屋敷のメイドが慌てた様子で部屋に入って来た。
キアラはじろりとメイドを睨んで、
「病状が落ち着くまで誰も通さないようにと言ったはずだけど?」
「申し訳ありません。ですが……その……ヴィッツィオ公爵令息様でして……」
「ダミアーノ様が?」
キアラは目を丸くする。自分のことを愛していない婚約者が、殊勝にもお見舞いに来るなんて。
「あ。そう言えばキアラ様が寝込んでいるあいだ、毎日のように公爵令息からお手紙が届いていました」とジュリア。
「あら、そうだったの」
「はい! キアラ様の言いつけ通り、全てビリビリに破いて燃やしました! でも報告したほうが良かったですかねぇ?」
「あぁ、報告なんて要らないわ。ちゃんと私の言う通りにして偉いわ。ありがとう」と、キアラは銀貨を手渡す。
「まいど〜!」
報告に来たメイドは、目の前で繰り広げられている信じられない会話に驚愕して凍り付いた。
常識だと、婚約者からの手紙を読まないで捨てるなんてあり得ないし、ましてや自身より身分が上の公爵家からの手紙を粗末に扱うなんて……。
「それで――」キアラは打って変わって冷めた視線をメイドに向ける。「ダミアーノ様をご案内したの?」
「は、はい。ただいま応接間にいらっしゃいます」
キアラはうんざりした顔でため息をついて、
「案内しちゃったら仕方ないわね。ジュリア、街へ行く前に挨拶だけしてくるわ」
渋々、婚約者のもとへ向かった。