もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

 少しのあいだティーカップのカチャリとした音と、ポリポリとお菓子を食べる音だけが鳴る。
 ややあって、ついにダミアーノが口火を切った。

「キアラ!」

 ダミアーノはキアラをまっすぐに見つめる。
 突然の行動に、彼女は思わず彼の視線を深く受け入れた。

 二人の双眸が交わる。
 しばらくの間、時間が静止する。

 キアラは目線をそらそうとする。
 ダミアーノはキアラの両肩を強く持つ。

 キアラは動けない。
 ダミアーノは視線を外さない。

 キアラの中に押し込まれた感情がじわじわと浮上していく。
 ダミアーノを「愛している」という彼女の本心が。

 だがその時、キアラは気付た。

 ダミアーノの瞳が――、

(黒い!!)

 ――パン!

 キアラの肌の表層に覆われた薄い膜が弾けたような、甲高い音。

 同時に、キアラはダミアーノを押し返す。
 憎き婚約者の瞳は、元のスカイブルーに戻っていた。

「っ……!」

 意外に強い力で押されて、ダミアーノは少しのけぞった。はっと我に返ったように、キアラを見る。

「ダミアーノ様……」

 そこには、背筋が凍るくらいに冷たい目をした婚約者の姿があった。

「キ、キアラ……?」

「いくら婚約者同士だとしても、強引に口をつけようとするのはいかがなものかと」

「ちが――」

「お帰りくださいませ。令嬢として、このような辱めを受けるなんて悔しいですわ」

「いや…………」彼は少しだけ躊躇するような素振りを見せて「その……悪かった」

 ダミアーノはがっくりと肩を落としながら辞去した。
 たしかにさっきの状況は、令息が無理に婚約者に口づけを迫るような格好だった。
 状況が状況なだけに、公爵家の不名誉にも関わる。だから今日は仕方なく諦めることにした。

 だが……、

(やはり、おかしい。今度こそ落ちたと思ったのに……)

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