もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「あっ、そうだ〜! 自己紹介がまだだった!」マルティーナが可愛らしくポンと手を叩く。「もう知ってると思うけど、わたしはマルティーナ・ミア。ダミアンの婚約者で〜っす! 来年にはマルティーナ・ヴィッツィオになるの」
「えっ……」
やっと掠れた声が出た。
マルティーナは笑顔で続けて、
「正式な婚約者になれたのはついこの間だけどぉ〜、わたしたち、ずっと前から愛し合っていたの〜」
見せ付けるようにダミアーノに抱きついて、頬に軽くキスをした。
「どういう……こと……?」
キアラは懇願するようにダミアーノを見る。
全身から血の気が引いて、寒くて寒くて仕方がなかった。
嘘であって欲しかった。君を助けに来たよって抱きしめて欲しかった。
「あぁ」彼の氷のような瞳がかつての婚約者を捉えた。「どういうことって、そういうことだよ。ティーナはオレの婚約者だ」
「そんなっ……! 聞いていないわ!」
「言ってないからな。これから消えるゴミに言う必要あるか?」
キアラの心にひびが入る。
「も〜! ダミアンったら! おバカちゃんにも分かるように、ちゃんと一から説明しなくちゃダメ!」
「はぁ〜〜っ。面倒くせぇ……」
「じゃあ、わたしが代わりに教えてあげる! あのね、ダミアンとわたしはずっと前から愛し合っていたの。でもね、あなたが二人の幸せの邪魔をしていたの。だから……ん〜〜、単刀直入に言うと――」
マルティーナのお人形のような顔がぐいと檻に近付いた。
「キアラ・リグリーア伯爵令嬢はぁ〜、ずっとわたしたちに騙されていたのでしたぁ〜!」
パチパチパチ……と、あどけない拍手が地下に響く。
「……」
心の亀裂はますます深くなっていく。
「そういうことだ。お前はもう用済みってわけ。オレの代わりに汚れ仕事をご苦労さん。おかげで邪魔な皇太子は消えたし、オレの公爵としての将来も安泰だ」
心は、ついに、砕けた。
「うふふふふ。ダミアンからこれっぽっちも愛されてもないのに、一生懸命頑張っちゃって可哀想な子。あなた人殺しにまで手を染めたんだってね? 本当、最っ低っっ……」
「もう行こうぜ。こんなゴミ女、顔も見たくない。さっさと死ね」
それが、キアラがダミアーノと言葉を交わした最後だった。
心が完全に壊れてしまった彼女には、もうなんの感情も残っていなかった。
それからまもなくしてキアラは処刑された。
すっかり心は死に絶えて、肉体なんてもうどうでも良かったけど。