もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
「キアラ様ぁ〜、小麦なんて買ってどうするんです? 損する確率のほうが高いですよ〜」
「いいの、いいの。ちゃんと勝算はあるわ。それに予算の範囲で収めるつもりだから」
「絶対、大損しますって」
「そしたら次の手を打つまでよ」
「はぁ……」ジュリアはため息をつく。「資金は全てがキアラ様が出していますから、損するのはご自身なんですよ〜」
「本当に大丈夫だって。私を信じて!」
キアラはジュリアを伴って穀物組合に来ていた。彼女は無事に小さな商会を設立させて、これから本格的に動き出すところだ。
商人一家の末娘であるジュリアは共同経営者になってもらった。
彼女は最初は恐れ多いと辞退したが、細やかな契約書を作成して権利関係などをはっきりさせて説得をしたら承諾してくれた。
曰く「キアラ様の商売人として割り切ったところがいい」らしい。
ジュリアは名目上は共同経営者でも、キアラに対しては従者として敬意を持って接していた。キアラとしても彼女のそういう割り切ったところが好ましかった。
今日もお礼の銀貨を忘れない。キアラはいつも懐に銀貨の入った袋を忍ばせて、ジュリアはもちろん他の使用人たちにも配っていた。
たかが銀貨、されど銀貨。
お嬢様のお手伝いをするとチップがもらえる。しかも、気前良く!
――と、屋敷の使用人の間では評判になっていた。おかげで今ではキアラに対して積極的に動く者が多くなっていた。
やっぱり、人の心はお金で買えるのだ。
キアラはカウンター越しに、意気揚々と店主に声をかける。
「小麦の在庫、全部いただくわ」
「小麦の在庫を全て貰おう」
「えっ……!?」
「は……?」
そのとき、なぜか隣の男の声と、綺麗に言葉がシンクロした。