もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「金貨100枚払うわ。隣の方ではなくて、こちらに全部ちょうだい」
「……っ!?」
レオナルドが思考に耽っていると、先にキアラが交渉をはじめた。彼女はなんとしても小麦を手に入れたかったのだ。
これから半年後に、帝国東部で歴史的な大洪水が起こる。そして小麦の需要が跳ね上がり、貴族や商人たちは買い占めに奔走するのだ。
だから、その前に投資をしておく。
破格の値段に店主は破顔しながら、
「そんなに払っていただけるのですか!? えぇ、是非あなた様に――」
「200だ」出し抜けにレオナルドが割って入る。「こちらは金貨200枚出そう。全てを売ってくれ」
意外な対抗にキアラは目を白黒させて、店主は瞳を輝かせた。
「はい〜、喜んで〜〜! 申し訳ありません、お嬢さん。今回はこちらの紳士に――」
「に……250払うわ! だから、私に……」
「キアラ様!」
キアラの無謀な挑戦に、ジュリアが慌てて制止する。
「いけません! 我々の予算をお忘れですか?」
「仕方がないの! ここは絶対に譲れないもの! 絶対によ!!」
キアラは断固拒否をする。初めて見る主の必死な姿に、ジュリアは驚いた。
(あんなに穏やかなキアラ様が……。これはきっと……絶対に儲かる話なのね!)
ジュリアは主の意向を理解したように、強く頷いてからすすっと引き下がる。
キアラも自身を鼓舞するようにぐっと両手を握った。ダミアーノへの手切れ金を早く払うためにも、ここは絶対に負けられない。