もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「ちょっと、よろしくて?」
キアラはレオナルドに話しかける。彼は疑わしそうに彼女を見てから、
「なんだ」
静かに返事をした。
(返事をしてくれたってことは、完全な拒否ではないわ)
キアラは店主に少しだけ時間を貰って、店の隅にレオナルドを連れて行った。
「交渉か? 悪いが、こっちは譲る気なんてないぞ」
……が、彼は取り付く島なし。
しかし、彼女はめげなかった。こっちには奥の手がある。
キアラはにっこりと微笑んで、
「皇太子殿下がこのようなところで何をなさっているのですか?」
「なっ……! お前……っ!」
レオナルドは目を見張る。
今日のことは最側近以外には誰にも知られないように、細心の注意を払ったつもりだった。ここまでやって来るのも極秘裏だし、この変装も完璧なはずだった。
彼の見事な狼狽ぶりに、彼女は勝ちを確信する。
(やっぱり本物の皇太子なのね。しかも、今ここにいることは露見されたら不味いということみたいね。……圧倒的に私の有利だわ)
勝利の方程式が見えたキアラは、とどめを刺そうと畳み掛けるように言う。
「英雄である皇太子殿下が、このようなところでコソコソされているなんて。これが皇族方や貴族たちに知られたらどうなるでしょうね。
その世間から身を隠すような姿ですと、露見されたら非常に不味いのでしょう?
ひょっとして私財で秘密の組織でも動かしています? もし、それが皇后派閥に見つかったら……」