もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
それでも、あの高名な皇太子を誤魔化すなんて無理だろうと諦念したキアラは、もう正直に話すことにした。
先ほどの取引で民を守れと念を押してきた正義感の強い彼なら、妙なことはしないだろう。
「……本当に私にも分からないのです。高熱から目覚めて、今朝身支度をしている際に気付きました」
「そうか」
それだけ短く答えて、レオナルドは思案顔でキアラをじっと見つめた。
「パーティーの時にはもう赤くなっていた。不確かだが……魔道具屋で会った時も、一瞬だけだが赤く光ったと思う」
「えっ?」と、キアラは目を丸くする。そんなに前から赤くなっていたの?
自分のことなのに、不気味で嫌な気分がした。
「昔から光の加減で赤く見えることはありましたが……」
「魔力はどうだ?」
皇太子の突拍子もない質問に、キアラは背筋が凍った。
たちまち、どくどくと胸に早鐘が打って、かっと汗が出た。
何気ない質問なのに、尋問されているみたいで酷く心地が悪い。
(これは……答えたらいけない気がする……)
根拠はないが、なんとなく彼のペースにはまったらいけないと思った。下手な受け答えをしたら、ただでは済まされない予感がしたのだ。
(魔女…………)
彼女の頭の中に、再びその名前が浮かび上がる。
絶滅した魔女は赤い瞳をしていたらしい。その魔法は人々に恐怖を運んで、現・帝国法でも魔女の魔法は禁忌とされている。
もし、ここでマナを感じると言ってしまったら……。
たちまち魔女として牢獄行きになるかもしれない……。
(今度こそダミアーノ様から開放されて、自由に生きるつもりなのに!)