もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜





「なんで俺は彼女にあんなことを言ったんだ……」

 ぽつねんと一人取り残されたレオナルドは、まだ後悔に苛まれていた。
 なんて最低なことを口にしたのだろうか。表面上は、ほとんど面識のない令嬢なのに。

 彼はどんな些細な会話でも、常に頭の中で思考しながら喋るように心掛けていた。
 皇族――しかも皇太子の発言は重みが違う。一言一言に責任が伴うのだ。

 同時に、憎き皇太子の揚げ足をとってやろうという勢力から、常に見られている。だから浅はか言葉を投げることは絶対に許されなかった。

(彼女は社交界で吹聴するような性格ではないと思うが……。怒っているだろうな…………)

 はぁ、と深くため息をついた。
 胸がチクリとして、なんだか苦しい気がする。

 レオナルドには赤い瞳の他にも気になることがあった。キアラが小麦を買い占めようとしていたことだ。

 貴族のお嬢様がなぜあのようなものに投資する気になったのだろうか。平穏そのものの現在において、わざわざ大量に購入する理由が見当たらないのだ。

 皇后派閥だって、たまたま穀物組合との繋がりがあったから確保できたのであって、東部の洪水を予測できたわけではない。単に運が良かっただけだ。

 これから起こるはずの洪水は、回帰を繰り返している自分だけが知っている。
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