もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「引き続き、あちらの監視を続けてくれ。だが無理はしないように。命の危険を感じたら逃げていい」

 ここにいる全員は、皇太子のために何度も命を落とした。今回も同じ轍を踏ませたくない。

「承知いたしました」

「それと、もう一つ――」レオナルドは少し躊躇う素振りを見せてから「ダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息と……キアラ・リグリーア伯爵令嬢、この二人の監視も頼む」

 ヴィッツィオ公爵令息はともかく、完全にノーマークだったリグリーア伯爵令嬢の名が上がったことに、臣下たちは驚きを隠せなかった。困惑した顔で皇太子を見る。

「まだ憶測の域に過ぎないが、伯爵令嬢は公爵令息から脅迫されているかもしれない。皇后派閥の陰謀の道具にされる可能性がある」とレオナルド。

 彼は令嬢が恋心から(・・・・)婚約者の言いなりになっているとは口が裂けても言えなかった。
 現段階では己の想像であるし、仮に本当だとしたら、彼女の名誉のためにも伏せておかなければならないと思った。

 ……いや、本当は恋心(そんなこと)など彼自身認めたくなかったのだ。

 同時に、脅迫あるいは恋愛感情を弄んで婚約者を支配している公爵令息に対し、憤りを隠せなかった。純真な令嬢の心を利用して悪事をさせるなんて、許されることではない。

「それから……ヴィッツィオ公爵令息から、この魔道具と酷似しているマナを感じた。監視の際は十分に警戒するように」と、彼は大事な事実も付け加える。

 あの凱旋パーティーの日、ダミアーノからはたしかに妙なマナを感じた。人工的な魔女のマナだ。おそらく彼は、皇后から下賜された魔道具を使用しているのだろう。

 しかしキアラからは、同じ魔女もどきのマナでも異なる力を感じた。
 本能的な直感ではあるが……あれは本物の魔女のマナだと思う。

 それを確かめるためにも、もっと彼女に接触したほうがいいだろう。あの魔力が皇后派閥に渡ったら非常に不味い。

 レオナルドは臣下たちを見渡してから、
「キアラ・リグリーア伯爵令嬢は俺も監視に加わる。今後は執務に余裕がある際は俺が直接見よう。気になることがあるのだ」

「えっ…………」

 レオナルドのとんでもない発言に、側近たちは絶句した。監視を命令する立場の皇太子自らが足を運ぶなど、通常ならあり得ない。
 なにより、殿下が個人的に異性に興味を示すなんて。

(まさか……殿下は伯爵令嬢に横恋慕しているでは…………?)

 側近たちは波のように一斉に嫌な予感が走り、静かにざわついた。


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