もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
「キアラ様、ついに我々のお店がオープンしますね!」
「えぇ。ここまで来られたのもあなたのおかげよ。ありがとう」と、キアラはピカピカ光る金貨をこっそりと一枚手渡す。
「ま、まいどーっ!!」
途端にジュリアの顔が上気した。ふんふんと興奮して、相変わらず分かりやすい侍女に、キアラはくすりと笑う。
キアラの事業の一つである女性向けのブティックが、首都の街に開店した。
過去六回分を生きた彼女は当然ドレスの流行を熟知しており、この知識は大いに役立つと考えたのだ。自分にとって身近なもののほうが、商売も上手くいくはず。
だが実のところは、好みのお洒落を楽しみたいとずっと願っていたのだ。
キアラは過去はいつも目立たない装いをしていた。ダミアーノが婚約者が着飾ることを嫌がったのだ。曰く、淑女たるもの慎ましくいて欲しいらしい。
くすんだ色の地味なドレス。それが、キアラの制服だった。
それも婚約者の裏で、マルティーナ・ミア子爵令嬢が絡んでいることを、キアラは後になって知った。婚約者の恋人は、野暮ったいドレス姿の伯爵令嬢を他の令嬢と一緒になって陰で馬鹿にしていた。
そんなマルティーナのドレスや装飾品はダミアーノが買い与えていた。彼は大事なお人形を飾るために、婚約者用の予算もほとんど愛しの恋人に注ぎ込んでいたのだ。
そのくせに、キアラが家門からの予算でお洒落を楽しむことも許されていなかった。
彼女がちょっと流行りのドレスを着ようものなら「公爵家に嫁入りする令嬢がふしだらな格好をして恥ずかしくないのか」と、酷く叱責された。
あの頃は彼の機嫌を損ねることがただ恐ろしくて、彼の言うことを唯々諾々と従っていた。
でもそれも全てミア子爵令嬢の嫌がらせであることが、今では既に分かっている。彼女は、ただ伯爵令嬢を貶めることが楽しみのようだ。そこには何の思想や信念もない。ただの幼稚な嫌がらせだった。