もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
でも、今回は違う。
キアラは首都に構えるブティックのオーナーなのだ。店の権威を示すためにも、常に流行の最先端でなければならない。……と、ジュリアが口を酸っぱくして言っていた。
ジュリアの発案で、オーナーのキアラ自身が店の広告塔として、最新のデザインのドレスを纏うことになった。
彼女は最初は柄にもないと辞退したのだけれど、ジュリアが強引に話を進めて、あまつさえ勝手にドレスも用意していたので渋々承諾したのだった。
今日のために用意したドレスは帝国では珍しいマーメイドラインで、長身のキアラのスタイルの良さが際立っていた。
店に訪れる令嬢や夫人たちは、チラチラと伯爵令嬢を見ている。彼女たちの眼差しは羨望で満ちていて、キアラはなんだかくすぐったい気分になった。
こんなに好意的な視線を浴びたのは初めてだ。何度回帰しても、公爵令息の婚約者である伯爵令嬢に良い噂はなかったから。
ちなみに赤い目は、ジュリアの家門の商会が用意してくれた魔道具で、もとの赤茶色に一時的に戻すことができた。まだ試作段階で不安定な面もあるが、しばらくはこれで乗り切れるだろう。
七回目にして、初めての経験。
ダミアーノから逃れることが目的なのに、キアラの胸は踊っていた。彼の指示ではなく、自分の意思で動くってなんて自由なのだろう。
それもこれも、お金があるおかげだ。だからもっと稼いで、婚約破棄の慰謝料なんかさっさと払って、残りの人生を謳歌しよう。
だが彼女の明るい気持ちは、そう長くは続かなかった。
それは大盛況で華々しくオープンを乗り切り、店じまいをしている最中のことだった。
「キアラ様……ヴィッツィオ公爵令息がお越しです」
忌々しいダミアーノが、キアラのもとへやって来たのだ。