もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


「キアラ、ブティックの開店おめでとう」

 ダミアーノは爽やかな笑顔を浮かべながら、真っ赤な薔薇の花束を婚約者渡す。血に染まったような濃い赤は、変色した己の瞳を思い起こされてキアラの憂鬱な気分は増していった。

「ありがとうございます」

「知人から聞いて驚いたよ。まさか君がこんな大胆なことをするなんて」と、彼は肩を竦める。

「申し訳ありません。ダミアーノ様にご迷惑をお掛けしたくなかったのです。……婚姻後は公爵家の屋敷の管理は私になりますでしょう? ですから、一度経営を実践で学んでおきたかったのです」

 あらかじめ用意しておいた言い訳を平然と並べる。
 常にキアラを下に見ているダミアーノのことだから、令嬢が事業を始めるなんて嫌がるに決まっている。

 なので「公爵家のため」というもっともらしい申し開きを用意していたのだ。彼も自分の家門のための行動なら、文句は言えまい。

「なるほど。それは殊勝な心掛けだ。ま、店を出すくらいなら令嬢のおままごととしては十分じゃないか。婚姻前の良い思い出になるだろう」

(おままごとですって……?)

 婚約者の相変わらず小馬鹿にした態度に、キアラは無性に腹が立った。

 今日のこの日のために、自分が、ジュリアが、協力してくれた商会のスタッフたちが、どれほど頑張ってきたか。経営を成功させるために、どれだけ皆が努力をしてきたか。
 その全てを完全否定されたみたいな気がして、酷く不快な気分になったのだ。
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