もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「っ……!?」
気が付くと、キアラの隣にはレオナルドが膝を付いて彼女を介抱していた。嗚咽する背中をトントンと叩いて、ハンカチで溢れる涙を拭っている。
(皇太子殿下……!?)
まさか次期皇帝である高貴な人物に慰められるなんて、驚きのあまり彼女は再び平静を取り戻した。恐れ多くて身体も強張る。
「な……なぜ……?」
本当は頭を垂れて礼を言わないといけないのに、今は彼の意図をただ聞くことしかできなかった。
皇太子は真面目な顔をして、
「何故と言われてもな。貴族社会の常識だと、泣いている淑女は紳士が助けなければならない。これは、遥か太古よりある騎士道というものを継承しており、現代帝国における法と直接の関与はないのだが、軍人として――いや、皇族として適切な応対だと思われる」
まるで法廷に立っているように淡々と述べる彼の様子が酷く滑稽で、キアラは思わずプッと吹き出した。
(前も思ったけど、本当に理屈的な方ね……)
彼の柔軟だか規律的だか分からない態度に、彼女の心は少しだけ柔らかくなった気がした。