もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

(はっ)

 レオナルドは心の中で毒付く。何が魔獣だ。よくもまぁ厚かましく嘘がつけるな。実際に自分は魔女のマナを感知している。偽物と――本物を。

「……妙なマナは花々から発せられたようだが、これらは貴公が持ち込んだと伯爵令嬢から聞いたが?」

 レオナルドは周囲を見回した。部屋中を埋め尽くすほどの美しい花たちは今では無惨に茶色く枯れ果てて、爆発の影響で散り散りになっていた。
 灰燼のようなそれからは、もう偽りのマナの力は感じ取れない。おそらくキアラの持つ本物のマナによって、魔力自体が消滅してしまったのだろう。

 理由は分からないが、自身の持ち込んだ魔女のマナがすっかり消え去っているのをダミアーノも感じて、彼はそれを利用することに決めた。

 勝利を確信した彼は軽く口角を上げながら頷いて、

「たしかに私が花を持ち込みました。本日は我が婚約者の記念すべきブティックの開店日ですから。盛大に祝いたくて従者に珍しい花も仕入れさせたので、ひょっとすると魔獣がマナでマーキングしていたのかもしれませんね」

「なるほど」

 レオナルドはしばし考え込む素振りを見せる。公爵令息がこのまま言い逃れをするのは想定内だった。

 しかし実際に人工的なマナの気配は消え去っているから、証拠がない。そんな状況下で皇后の手下である彼を責めるのは己が不利になるだろうと思った。
 無駄な争いを起こすよりは、もっと泳がせてから確実に証拠を押さえたい。
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