もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
キアラは二人の会話を黙って見つめていた。魔力のないはずの自分は、マナの気配でさえ感じることができない……ことになっている。
ここで余計な口出しをして、目覚めた魔力が二人に露見してしまうことを避けたかった。
「その可能性が一番だな。稀少な花は自然から採取したのだろう。その際に魔獣がマーキングをしていて、魔力のない人物は気付かずに持ち帰ったのだろうな」
レオナルドは自らダミアーノに調子を合わせてやる。ここは公爵令息の茶番に付き合うことにしようか。
「二人とも災難だったな。命が無事でなによりだ。――リグリーア伯爵令嬢、怖い思いをしただろう? 君さえ良ければ、近くに待機させている私の騎士たちにここの後始末をさせたいのだが……どうだろうか?」
「そんな。皇太子殿下の騎士様に雑用をさせるなんて恐れ多いことですわ」
レオナルドはふっと笑って、
「首都は平和そのもので、彼らの身体はなまっているんだ。喜んで掃除をやるよ。それに万が一、魔獣のマーキングが生きていたら危ない」
「……それでしたら、お言葉に甘えてお願いいたします」
キアラは笑顔で答えるが、少し警戒もしていた。
ここには魔獣の気配なんて端っから存在しないし、ダミアーノが放っていた怪しいマナも自分が完全に消し去った。
だから彼には何か別の意図があるのだと思った。はたまた本当にただの高潔な精神か。
いずれにせよ、ダミアーノと二人きりで過ごすより、皇太子と一緒にいたほうが安全だ。高貴な方の顔を潰すような無礼を働きたくないし、断る理由はない。