もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「ヴィッツィオ公爵令息。君は怪我をしているな。頭を打っているようだし、今日はもう帰りなさい」
レオナルドはキアラの代弁をするように、ダミアーノに声を掛けた。彼女も婚約者の帰宅を願っていたので、渡りに船で皇太子に続く。
「そうですわ、ダミアーノ様。早く治療をしたほうが良いと思います」
ダミアーノは婚約者としてキアラを心配するような素振りを見せてから、
「皇太子殿下にそう言われたら辞去するしかありませんね。私としても、魔獣という未知のマナにやられて身体が重いので、こちらで失礼させていただきます。キアラも心配ありがとう」
皇太子の気遣いは、彼にとっても好都合だった。このままここにいたら、いつ襤褸が出るか分からない。あの方に不利益になるようなことは、決して行ってはならないのだ。
「私は魔力がないのでダミアーノ様のお辛さが分かりませんが、とても疲弊しているように見えますので、どうかお大事に」
キアラはさっさとダミアーノを追い出そうと、使用人のように扉を開ける。彼は皇太子に恭しく一礼をして、踵を返した。
静かに扉が閉まる。
キアラとレオナルドが取り残される。
「さて……」
二人きりになった途端に、レオナルドは少しだけ姿勢を崩した。彼なりに緊張していたらしい。
「これで邪魔者はいなくなった。腹を割って話そうじゃないか、リグリーア伯爵令嬢」
にわかにキアラに嫌な予感が走った。
もしかしたら、自分は選択を間違えたのかもしれない。一刻も早くダミアーノに出て行って欲しくて、皇太子について深く考えなかったのかもしれない。
そんな彼女の悪い予感は、見事に的中をした。
「その……魔女のマナについて説明してもらおうか」