もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
(……愚かだこと)
二回目からはずっとこんな調子だった。恋人同士の茶番劇。そんな馬鹿なことなんかに付き合ってなんかいられない。
変わらない繰り返しに、キアラは本当にうんざりしていた。
とにかく今は早く屋敷に帰りたいので、彼女はこの拙い劇を終わらせることにする。
「本日は第二皇子殿下が設けてくださった場です。そこで騒ぎを起こすなんてヴィッツィオ公爵家とリグリーア伯爵家の恥だと思いませんか?」
「だから、お前が謝れば――」
「ですので、こうしましょう」キアラはポンと手を叩いて言う。「騎士に調査をしていただくのです。それでしたら公平に審査をしていただけますわ」
彼女の提案にマルティーナの顔はみるみる曇った。騎士なんて、すぐに嘘がバレてしまう。そうなったら自分の信頼どころか、家門の立場も危うい。
キアラは子爵令嬢の心情など知らない振りをして笑顔で続ける。
「あら、費用のことならご心配なさらず。全て我がリグリーア家が負担いたしますので。存分に調べていただきましょうね」
「そ、それは…………」
マルティーナがか細い声を上げたと思ったら、彼女は急に意識を失ってその場に倒れた。
隣にいたダミアーノが慌てて抱きかかえる。そして数名の取り巻きたちと騒がしく医務室へ。
茶番劇は毎回ここでおしまい。
婚約者の浮気も子爵令嬢の嘘も有耶無耶になって、ちょっとの間だけ噂話になるだけだ。
若い貴族たちは一ヶ月もしたら別のスキャンダルに夢中になる。狭い世界で、そんなゴシップの繰り返しだ。
キアラは婚約者を追うこともなく、静かに会場をあとにした。