もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「それは……」

 やっとキアラが口を開けて、

「きっと、ヴィッツィオ公爵令息から贈られた花のせいですわ」

 ひとまず誤魔化してみることにした。

「……は?」

 レオナルドはギロリと()め付ける。全てを見透かしているような視線に、キアラは覚えず竦み上がった。

 だが今ここで魔女のマナに目覚めたと知られると、忽ち窮地に陥るのは火を見るより明らかだ。
 ここは、何が何でも知らぬ存ぜぬで貫き通さねば。

 キアラは平静を装いながら、

「で、で……殿下がおっしゃったのでしょう? 公爵令息が持ち込んだ稀少な花々の中に野生の魔獣のマーキングがあった、って。おそらく、それが暴発したのでしょう。ですので、私はなぁ~んの、関係もありませんことよ!」

「ほう……?」

 レオナルドは愉快そうにニッと口角を上げる。そしてキアラの眼前まで近付いて、じっと赤い瞳を見つめた。

(な……なによ、この人……)

 キアラは焦った。ただでさえ逃れるために嘘をついているのに、帝国最強の軍人である皇太子殿下と至近距離で目を合わせるなんて。
 凄まじい威圧感に心臓が跳ねて、身体から飛び出そうなくらいにドクドクと踊っていた。

(ち、近い……! 顔が近い! 怖い!!)

 彼はにこやかに相槌を打って、

「そうだな。たしかに私は魔獣のマーキングについて話したな」

「えぇ、そうですわ。そうです、そうです」と、彼女は何度も頷く。

 彼は顎をひと撫でしてから、

「だが、それなら妙だな。私は花々から未知のマナを感じ取ってここへやって来たが、部屋の中へ入った時にはもうその魔力は消え去っていた」

「あら、まぁ。それはお気の毒に」と、彼女はすっとぼける。

「――で、部屋には魔女のマナが満ち満ちていたんだ」

「そ、そうですの? 私は魔力がないので分からなかったですわ。オホホ」

 しばしの沈黙。キアラは目を泳がせ、レオナルドは興味深そうに彼女の視線を追った。
 それは彼女にとってとてつもなく長い時間に感じられて、呼吸が止まりそうなくらいに苦しかった。
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