もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
少しして、彼は何かを思い付いたのか、ニヤリと口元に弧を描いて笑う。
「ところでリグリーア伯爵令嬢、私はかりにもこの国の皇太子だ」
「えぇ。よく存じておりますわ。殿下は北部を制圧した英雄でございます」
「帝国では身分が絶対だな。よっぽどのことがない限り、それは恒久的だ」
「そうですわね」
「では……」彼は声を落として「仮に伯爵令嬢が皇太子を欺こうとしたなどと世間に知られたら……どうなるかな?」
「っ……!?」
キアラは再び背筋が凍った。帝国法では身分が絶対。下の者が上の者を出し抜くなんて、あってはならないことなのだ。ましてや、たかだか令嬢如きが皇族――しかも皇太子を騙すなんて。
皇太子はわざとらしい態度で続ける。
「おや、そうだ。さっき君は公爵令息のことを殺そうとしていたな。これを私が世に訴えたら、君に関わる全てのものに隅々まで調査が入るだろうな」
今度はゾクリと全身が泡立った。調査とは、体内のマナの調査も含まれている。そうなると、己が魔女のマナを有しているのが露見されるのは時間の問題だろう。
「それは……」
「それは、婚約者の耳には勿論、皇后陛下のもとへも情報が行くだろうな。そうなれば、君はどうなるだろうか?
狡猾な皇后のことだから、揉み潰してくれるとは思うが……その代わりに骨の髄まで利用し尽くすだろうな。一生」