もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「私の要求か……」
レオナルドは少し思案して、
「君が合法的に私の側にいられれば良い。それだけで私は君の盾になれる。同時に、君が敵対派閥に渡らない確信も得られる。それが私の要求だ。それさえ満たされれば、君は好きなように生きればいい」
(えっ……?)
キアラは目を見張った。こんなの、要求でもなんでもない。単に自分を皇太子の派閥に入れるだけだ。
(伝説の魔女のマナを利用するわけでもなく、ただ側に置くだけ……?)
たしかに敵対派閥に魔女のマナの力を使わせないだけで、皇太子は安堵するだろう。現状は維持されて、何もなかったのと変わらない状態なのだから。
禁忌の力が世間に露見されないのなら、こちらも向こうもプラスマイナスゼロだ。
(でも……本当にそれで良いの?)
キアラはただ面食らった。魔女の力を使わないとなると、イコール利用価値がない者を側に置いて、なんの意味があるのだろうか。貴族社会は利害関係で成り立っているのに。
……そんなことを考えていると、レオナルド・ジノーヴァーという人物自体に俄然興味が湧いてきた。
「ですが、具体的にはいかがなさいますの? ご存知の通り、私はヴィッツィオ公爵令息の婚約者です。その時点で自動的に私も皇后派閥になっておりますわ」
「そのことだが」
レオナルドはコホンと咳をして、少しだけ視線を彷徨わせた。微かに顔が上気している。
一拍して彼はまっすぐに彼女の瞳を見つめて、
「君が公爵令息と婚約解消をして、新たに私の婚約者になりなさい」
それは、キアラの全身を吹き飛ばしてしまうような、とても衝撃的な言葉だった。