もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
「ん……」
キアラが目を覚ますと、そこは見覚えのない景色の中だった。
豪華な天蓋に滑らかなベルベットの幕、羽に包まれているみたいなふかふかのベッド、そして眼前には光のような金色の髪に整った顔をした……、
「気が付いたか」
「こっ、皇太子殿下っ!?」
ガバリと飛び跳ねるように起き上がる。心臓がバクバクと音を立てて鳴りはじめた。
不可思議な光景を前にして、にわかには今の状況が理解できなかった。
「まだ横になっていなさい」
レオナルドに優しく肩を押されたキアラは、ぽすりと再びベッドの中へ身体を預けた。
「混乱しているようなので、簡潔に説明しよう。君は二時間ほど前に、ブティックの二階の執務室で倒れた。魔力を持たない令嬢は、魔獣のマナに蝕まれた可能性がある。
なので検査と治療を兼ねて、皇太子の宮殿へ連れて行った。店の始末は私の騎士に任せ、不便だろうから君の侍女を一人連れて来させた。世間体もあるしな」
「えぇ……。とっても分かりやすく説明してくださってありがとうございます」彼女は呆れた顔をして言う。「魔力耐性のない令嬢が思わぬ事故に遭って、王宮で治療――素晴らしい申し開きですこと」
「さすがに理由もなく婚約者のいる令嬢を攫うのは不味いだろう。何故ならば――」
「分かっています! 殿下は気絶した私を助けてくださったのですね」
キアラは皇太子の話を強引に遮る。またあのくどくどと長ったらしい説明を聞けるほどの余裕は持っていなかった。