もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


「その様子だと、身体のほうは問題なさそうだな。さっきの話の続きをしようじゃないか」

「さっき……?」

 キアラの身体がピタリと止まる。
 言われてみれば、執務室で何か重要な話をしていたような……?

 …………、

 …………、

「っ……!?」

 やっと停止していた頭が動き出した。執務室でのレオナルドの言葉を思い出すと、みるみる顔が上気していく。

「思い出したか」彼は平然と言ってのける。「我々の婚約の件だ」

「なっ……!」

 彼女は唖然として言葉が見つからない。

「君は馬鹿にするなと言っていたが、そのようなつもりは無かった。不快にさせたのなら謝ろう」

「……」

「だが、よくよく考えて欲しい。婚約することによって、互いに得られるメリットは最大のはずだ」

 レオナルドはじっとキアラの瞳を覗き込む。エメラルドグリーン色の双眸は、彼女の燃え盛る赤い瞳を静寂に連れて行くようだった。水に包み込まれたみたいに、荒れた感情が落ち着いていくのが分かる。

 やがて、彼女はぽつりと喋り始めた。

「嫌………など、そういうのではないのです……」

「では、どういうわけなのだ?」

 彼が彼女の瞳を再びじっと見つめた。それだけでドキリと心臓が飛び跳ねる。

 そう言えば、婚約者からこんなに真っ直ぐな視線を貰ったことがあっただろうか。

 たしかに魅了魔法をかける時は自分の瞳を見ていたが、それはどこか黒ずんでいて遠くを見ているようだった。皇太子のように相手の声を聴こうと、婚約者の意思を尊重するような素振りは全くなかったのだ。
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