もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

 レオナルドはキアラが自ら言葉にするまで待つ。沈黙の時間も嫌な気分はしなかった。

 ややあって、やっと彼女が口を開いた。

「私は……ヴィッツィオ公爵令息と婚約解消をしようと密かに計画を立てて、一人で動いていました」

「そうか……」

「そのために、悩みました。考えましたわ。とても……。どうやって現状から抜け出そうかと。私は……」

 またもやキアラは言葉に詰まった。過去の六回分の悪夢のような経験が脳裏に甦る。じわりと目元が熱くなった。
 レオナルドは辛抱強く、相手の言葉を待つ。

「計画はまだ始まったばかりですが、私なりに努力をしてきたつもりです。ですが、殿下は婚約解消をあっさりとおっしゃるので……これまでの自分を否定された気分になったのです」

 自分の気持ちに嘘をつけなかった。まだ始まったばかりで低い位置ではあるものの、一生懸命積み上げたものを天の力で無造作に破壊されたみたいで、酷く虚しかったのだ。

「それは……悪かったな」と、皇太子は素直に謝る。皇帝に継ぐ身分の方に二度も謝罪されて、伯爵令嬢は目を白黒させた。

「どうやら私は君の感情を顧みず、独り合点で事を急ぎ過ぎたようだ。皇族の悪い癖だな」

「いえ、殿下のおっしやることは理にかなっておりますわ。私としても、皇后陛下に使い捨てられるのは御免ですので、殿下の保護を受けるのが最適だと思っております」

(また……処刑が待っているでしょうからね……)

 過去六回の経験と照らし合わせると、今回も間違いなく殺されるだろう。
 それなら、皇太子に賭けるほうがいい。

 レオナルドはふっと笑みを漏らして、

「君は自分自身の力で、婚約解消をもぎ取りたいということだな?」

「……そうです」

「では、どのようにして婚約解消をする予定だったのだ?」

「それは――」
 キアラは己の計画を洗いざらい話した。ジュリアにも教えていない極秘の計画だ。
 レオナルドの持つ雰囲気がそうさせるのか、不思議と彼には本当のことを話してもいいと思った。もっとも、回帰のことは伏せてだが。
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