もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「…………」
「…………」
生ぬるい空気の中、残された二人。
キアラはまだ顔を赤くして俯いて、レオナルドは困ったように目を宙に泳がせた。
(た、大切って……。――き、きっと魔女のマナのことよね! きっとそうよ! そう!)
キアラは落ち着かせるように自身に言い聞かせる。
そう、自分たちは政治的な思惑で取引をしている関係なのだ。皇太子殿下は自分ではなくて、この力が欲しいに違いない。
それに、過去六回で自分は学んだのだ。愛はまやかしだと……。
最後はお金と打算。それが世界だ。
(俺はなんてことを口走ったんだ……! 皇太子の言葉は重みがあるものだぞ……!)
レオナルドは反省していた。彼女を見ていると、つい本音が出てしまう。
あんなに憎らしかったのに、今では欲しいと思い始めている自分がいた。それはマナではなく、彼女自身を。
しばらくの妙な空気のあと、レオナルドが口火を切る。
「と、とにかくヴィッツィオ公爵家には、金貨10000枚と南部の土地で決まりだ。他の条項も決めてしまおうか」
「承知いたしました」
貴族令嬢であるキアラもすぐさま気持ちを切り替えた。貴族はポーカーフェイス。
今日は平等な契約をしに来たのだ。頼りにしていたジュリアが離れた今、自分がしっかりしなければ。
自分に必要なものは、愛ではない。
「では、私は殿下に10000枚支払います。残念ならが土地の提供は出来ないので、その分、微量ですがプラスして金貨2000枚を払いますわ」
「それはいい。君は元より想定していた3000枚を返済すれば十分だ」
「それでは約束が違います。それに心配しなくとも大丈夫です。事業を着実に進められれば、時間がかかるかもしれませんが、必ず……!」
「いや、過剰分は私が勝手に決めたことだ。君は関係ない」
「関係大ありですわ! 私がダミアーノ公爵令息と婚約解消をしたいのです。その手切れ金を全額支払うのは筋ですわ」
「3000でも婚約解消は可能だろう。だから、君は当初予定していた金額でいい」
「それでは私の気持ちが収まりません。私は、他人と貸し借りはしたくないのです。ですので、全額払いますから」
「君も強情だな。私が払うなと言っているのだから、払わなくて良い」
「いいえ、払います」
「結構だ」
「もう決めましたので」
「……」
「……」