もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「……」
「……」
意地を張り合いながら、睨み合う二人。どちらも一歩も譲る気がなくて、視線もそらさない。
(まったく。強情な子だな……)
レオナルドはうんざりと心の中でため息をついた。おそらく伯爵令嬢は絶対に譲歩しない気だろう。
(それほどに彼女の意思は硬いのだな)
自分の仮定が正しいとして、彼女は公爵令息にずっと酷い目に合ってきたのだろう。何度も何度も。
なので今回こそは、自分の手で自由を掴みたかったのだと思う。
これは彼女の矜持だ。それを踏みにじるようなことはしたくない。
今の彼女には、それが生きる意味でもあるのだろう。
「……分かった。では、君には金貨10000枚を払って貰おうか。土地代は君のマナの対価分だ。いいか?」
「承知しましたわ」
交渉が成功して、キアラはにこりと笑う。嬉しかった。皇太子殿下がダミアーノと違って話の分かる人間で良かった。
これで、今回こそは婚約者と対等でいられる。自分にも戦える力がある。
レオナルドは彼女の笑顔を見て、なぜだか胸が温かくなった。
(ま、金貨10000枚稼ぐあいだは婚約者でいられるしな……)
不意に自分でも想定外の考えが浮かんできて、彼は赤面した。少しでも長く彼女の婚約者でありたいと漠然と願ったのだ。
(何を考えているんだ、俺は……)
ついこの間まで憎き仇敵だったのに。
今では、彼女の笑顔が愛おしいと感じたのだ。
◇
こうして二人は秘密の契約を煮詰めていって、半月後、ついにキアラとダミアーノの婚約解消が実行される。