パパLOVE
花火を見終わってから、思い出づくりのために金魚すくいがしたいと彼に言った。

彼はあんなことがあったあとだけど、私の手を握って金魚すくいのお店まで連れて行ってくれた。

彼は私がやるのを黙って見てくれた。

結果は5匹の金魚をすくうことが出来た。

彼は私の予想外の上手さに驚いた表情をしていた。

もっと取ろうと思えば取れたけど、5匹でやめておいた。

金魚すくいを終えたあと、意味もなく神社の中を行ったり来たりした。

彼はきっと直ぐには帰りたくなかったし、私も帰りたくなかった。

それでもとうとう帰る時が来てしまった。

神社から駅までの道のりを私たちは無言で歩いた。

もともと私は喋らないから、いつも静かなものだけど、今日のは訳が違っていた。

お互いに、今夜が2人でいられる最後の夜になることを何となく感じていた。

それは彼が出した結論で、私もそれに従うしかない。

もし舞台を観に行くことがあっても、出待ちをすることはなくなったし、出待ちのあとに2人で出かけることなんて2度と叶わないだろう。

付き合っていた訳ではないけど、何だか恋人同士が別れるみたいな空気になっていた。

歩いていると彼は私に気付かれないように目を擦っていた。

何度も目を擦っては冷静を装っているように見えた。

だから私は見ていないふりをした。

私だって悲しくて苦しくて、さっきから涙が止まらないんだから。

そして、とうとう駅に着いてしまった。

「じゃあ、ここで」

彼を見ると、今にも涙が溢れそうな顔をしていたので私は静かに頷いた。

「気を付けて帰って」

彼はそう言ったにも関わらず、私の握った手を離そうとしなかった。

彼の気持が痛いようにわかって苦しくなった。

ふと顔をあげると彼の目から涙が頬を伝って流れ落ちた。

と思った直後、私は彼に抱きしめられていた。

私も彼の腰に腕を回して抱きついた。

離れたくない…

離れたくないよ…。

それから私と彼は改札の前で別れた…。
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