パパLOVE
それからしばらくして、試合が始まった。

サッカーのルールなんて全くわからないけど、敵のゴールにボールを入れれば得点なのは何となくわかる。

そして彼がボールを持った。

彼は上手にボールをコントロールをして敵の選手を次々とかわしていった。

彼のスピードについていける選手は誰一人としておらず、彼はゴールに向かって突進して行くと思い切りボールをキックした。

彼のシュートしたボールは一直線にゴールの左すみに突き刺さった。

「やったー西島く〜ん」

私は気づくと大声で彼に声援を送っていた。

彼もその声援に応えるように私に向かってガッツポーズをしてくれた。

だから私もガッツポーズをして返した。

らしくないことをしたのは自分でもわかっている。

お金持ちの令嬢がこんな下品なことをするのは許されないのもわかっている。

でも、頭でわかっているのと心を抑えることは別物で、今私は心の赴くままに行動してしまっていた。

ふと、隣で私を見守っている柊木を見ると目が合った。

しまった…見られてた。

「お嬢様、それがスポーツ観戦というものです。こういう時は庶民だろうがお金持ちだろうが関係ありません」

柊木は私と向き合い、肩に両手を乗せると腰を屈めて、そう私に言ってきた。

「そんなこと、言われなくてもわかってるわ」

知ったかぶりをしたところで、柊木は私のことなら何でもわかってる。

だから、そのあとも声を出して彼に声援を送り続けた。

声が枯れるまで彼を応援した。

試合が終わると、結果は8対1と彼のチームが大勝利を収めていた。

8点のうち5点は彼がシュートをして得点したもの。

彼はサッカーが本当に上手だった。

しかもカッコ良かった。

彼のチームが勝利したのはもちろん嬉しかったけど、彼が嬉しそうに仲間と抱き合い喜びを分かち合っている姿を見ていたら嬉しくて涙が溢れてきた。

何かに感動して涙を流すなんて初めての経験だった。

目から流れ落ちる涙を手の甲で無造作に拭っていたら、柊木に抱きしめられた。

誰かに抱きしめられたことなんてないから、こんなにも温かくて安心できるなんて思ってもみなかった。

だから私は柊木の胸の中で思い切り泣いた。

しばらくの間、泣き続けて落ち着きを取り戻した頃、選手たちが自分のベンチまで戻って来た。

それから選手たちは監督と思われる中年の男性から色々とアドバイスをもらっていた。

そして、それが終わると彼は一目散に私のもとにやって来てくれた。
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