パパLOVE
「ふう〜〜間に合いましたね」

柊木は突然立ち止まると、深い吐息を吐いたあと訳のわからないことを言い出した。

「柊木、何で立ち止まるの?」

「あちらの方がお嬢様にようがあるようなので」

「何言ってるっ‥どっ‥どうして?」

柊木が指をさした方に視線を向けると、そこにはいるはずのない彼がこちらに向かって歩いてきた。

「なみちゃん…」

「どうしてここが?」

そう言ったあとで、誰の差し金かはピンときた。

どおりで様子がおかしかった訳だ。

「柊木、余計なことを」

「お嬢様がお望みとあれば、それを叶えるのが執事としての私の努めです」

「ふんっ、悪くないわ」

柊木は私に向かって一礼すると、私と彼を残してどこかに行ってしまった。

「なみちゃん、ごめん。すーちゃんがあんなことをしてしまって…」

彼は目に涙をためて、今にも泣き出しそうな悲しい表情をしていた。

「もういいわ。済んでしまったことよ。それにあなたがやった訳じゃないし」

「そうだけど、僕の妹がなみちゃんにケガをさせちゃったんだから、兄として謝らなきゃいけない」

「そんなことを言うためだけに、ここに来たのかしら?」

「違うよ」

「だったら何?」

「数ヶ月だったけど、なみちゃんと一緒にいられて楽しかった。色んなところに出かけて、美味しいものを一緒に食べて、本当に幸せだった」

「それは良かったわ」

好きな人にそんなことを言われて嬉しくない訳がなかった。

でも、素直になれるほど私は簡単じゃなかった。

「待ってる。なみちゃんが日本に帰ってくるのを待ってる。会えるのを楽しみに待ってる。だから、日本に帰って来たらまた一緒に遊んでくれる?」

「そうね、どうしてもって言うなら考えてあげなくもないわ」

「うん、待ってる」

「いつ帰ってくるかわからないし、もしかしたらあなたのことなんかアメリカに行ったら忘れてしまうかもしれないわ。それでも待つというなら好きにしなさい」

「僕は忘れない。なみちゃんと一緒に過ごした日々を絶対に忘れない。だから、僕はずっと待ってる。なみちゃんをずっと待ってる」

「あら、そう。もう時間だから行くわね。ごきげんよう」

私はそれだけ言い残すと足早にその場を立ち去った。

あのまま彼の前にいたら、私は彼の前で泣いてしまったから…。

泣き顔なんか見られたくなかったから…。
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