パパLOVE
「彼はどこか調子が悪いのかしら?もしくは何か迷いでもあるのかしら?」

「快斗はわし以外のメンバーには誰一人として言うてまへんが、スランプに陥ってるようです。快斗はレベルが高すぎるから普通の人間が見ただけでは絶対にわかりまへんが、自分のプレーに納得がいかんで悩んでます。さすがはお嬢様。恐れ入りますわ」

彼のプレーを見てれば、どこが痛いのかどこが調子が悪いのかわかる。

何を考えているのかも何となくだけどわかる。

試合でも彼がどう攻めようか、どこにパスを出そうとか、どこでシュートを決めようとしているのかは私にはわかる。

10年近く彼のプレーを繰り返し繰り返し見てきたんだから、それくらいわかる。

しばらく練習を見学していると、朝練が終わりの部員たちは朝のホールムームに間に合うように支度を始めた。

彼は一旦部室に行き、着替えを済ませると校舎に向かって歩いていた。

決して明るい足取りではなかった。

むしろ落ち込んでいると言った歩き方をしていた。

そして彼は多くの女性ファンに囲まれながら校舎に向かって歩いていた。

私と彼の距離は5メートルまで迫っていた。

息を吸えば彼の匂いがわかるような距離にまで差し迫っていた。

胸が張り裂けんばかりに鼓動を始めていた。

「ちょっと待ちなさい」

私はファンと並んで歩く彼の前に仁王立ちをして行く手を遮った。

「何なのあなた。どきなさいよ!」
「邪魔なんだよ」
「アッチ行けよ」

あちこちから批判の声が聞こえてきた。

彼のファンがこの程度の人間しかいないことにガッカリした。

「おだまりっ」

私は言い捨てるように大声でそう言った。

すると私の声に驚いたファンの連中は一瞬で静まり返ってしまった。

所詮、高校生のガキが粋がっているだけだとわかった。

「君は?もしかして…」

「何かしら?」

「なみちゃん…」

彼は私を真っ直ぐに見つめると、迷うことなく私の名前を呼んでくれた。
< 186 / 378 >

この作品をシェア

pagetop