パパLOVE
それと並行して恐れていたことが起こり始めていた。

彼もまた、9年間ずっと会わないでいた妹に接触し始めた。

教室に行っては妹を呼び出して話しかけたり、スマホの電話番号を聞き出したりと色々と手を打ち始めていた。

また部活の練習を終えると、妹がアルバイトをしているファミレスに立ち寄って、食事をするなどをしていた。

でも、妹が今夢中になっているのは父親の方で、彼の存在は本当に迷惑だったらしく、終始塩対応で接しているとLと詩美から聞いている。

妹と彼がもとの関係に戻るのはハッキリ言ってよろしくないけど、彼が妹にそんな態度をとられ続けているのには心が傷んだ。

あんなにお兄ちゃん子だった妹なのに記憶がなくなってしまえばただの他人同然になってしまうのは悲しいものだ。

それとは逆に、妹は父親が大好きで大好きで仕方なく、ほぼほぼ毎日のように会っては食事に行ったり、妹のバイト先で食事をしたり、いろんなところに出掛けたり、父親のマンションに泊まったりしていた。

本当にどうしようもないくらいバカなんだと思った。

そんなバカな妹に猛烈に接触を試みている彼を見ていたら、いたたまれなくなっていた。

それと同時に怒りが込み上げてきた。

あの妹の絶望した顔が見たくなった。

全てを思い出させて絶望のどん底まで落としてやろうと思った。

面白いことを思いついた。

記憶がないにせよ、大好きだったお兄ちゃんが目の前で他の女と仲良くしていたら、もしかしたら記憶が戻るキッカケになるんじゃないかと思った。

それにもし記憶が蘇らなくても、いつも言い寄ってくる彼が他の女とよろしくしていたら面白くないだろうし、腹が立つに決まっている。

だから私は、わざと妹の前で彼と2人でいる現場を目撃させたりした。

そんなことを幾度と重ねてきたけど、妹の反応はイマイチだった。

そんなある日の朝、朝練終わりの彼に会いに下駄箱に行くと、彼と妹が真剣な面持ちで話しをしていた。

嫌な予感が頭をよぎり、気付いたら2人の間に割って入っていた。

そしてこともあろうことか、私は妹に「私と彼は付き合っている」と嘘を言った。

そして彼に私とキスをするように迫った。

出来ないなら妹に全てを話すと脅した。

すると彼は一瞬戸惑ってはいたけど、ウソをついた私を責めることも言い返すこともなく、私の言葉に従って唇と唇を重ねてきた。

本当にしてくるとは思わなかったので気絶しそうなくらい驚いた。

彼の反応を確かめたくて言った言葉だったのに…

どうして何の抵抗もなくそんなことが出来たのか不思議で仕方なかった。

それと同時に、キスなんて彼にとっては大したことではなかったのだろうかという疑念が脳裏をかすめた。

少し悲しくなった。

とは言え、私のファーストキスは彼に奪われた。

悲しいと思いつつも、心臓が口から飛び出しそうなくらい興奮して、ドキドキして頭が真っ白になって思考回路がショートした。

天にも舞い上がるような幸せな気持ちだった。
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