パパLOVE
「静かになさい。ここをどこだと思ってるの」

「そんなの知らない」

「迷ってるなら帰るわよ。そんな生ぬるい感情で確かめるような簡単なものじゃないから」

それは妹だけじゃなく、自分自身に対して向けた言葉でもあった。

私にはその覚悟はなかった。

「松乃様…」

柊木がそう言ったので振り向くと、顔を青ざめてフラフラ歩いている詩美の姿を見つけた。

「詩美、こんなところで何をしてるの?」

「・・・・・」

「ちょっと聞いてるの?」

詩美は私の言葉など聞こえていないのか、正面玄関に向かって歩き続けていた。

ふと詩味の手元を見てみると、何か紙を強く握りしめていた。

妹がマイナンバーカードと印鑑を盗まれたという事件と、詩美と役所で出くわすという偶然が起こった時から嫌な予感はしていた。

私は詩美を追いかけて、正面玄関のエントランスまでやって来た。

「詩美、手に何を持ってるの?よこしなさい」

私は詩美の持っている用紙を強引に奪い取ろうとした。

でも、詩美は決して離さなかった。

「香澄…これ…」

詩美は何を思ったのか、私の手を振り払うと香澄にそれを手渡しで渡そうとしていた。

「やめなさい!」

すると妹は用紙を詩美から受け取り、内容を確認しようとそれに目を通し始めてしまった。

「見てはダメっ」

私が妹の手から用紙を取ろうとすると、背後から詩美に押さえつけられてしまった。
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